現場英語

外国人患者対応で実際に困った場面と乗り切り方

公開 · Hiyu Lab

教科書には載っていないけれど、現場では毎回起きる——外国人患者さんの対応には、そんな「困りごと」がたくさんあります。この記事では、理学療法士と管理栄養士の運営メンバー2名が実際に困った場面を持ち寄り、そのとき使えた英語・後から「こう言えばよかった」と思った英語とともに振り返ります。

この記事の読み方

紹介するのは「完璧な対応例」ではなく、実際につまずいた記録です。同じ場面に出会ったとき、少しでも心の準備になれば幸いです。

01場面1:初日、決まっているはずの質問が英語で出ない

運営メンバー(管理栄養士)が初めて外国人の入院患者さんを担当した日のことです。入院時の栄養アセスメントのために訪室すると、体重測定は体重計を見せただけで察して乗ってくださいました。ところが、「入院前の体重」がどうしても聞き取れません。現在の体重だけでは体重減少率が計算できず、その日は栄養評価を完成させられないまま病室を後にしました。ジェスチャーで通じる場面と、言葉でしか取れない情報の差を痛感した日です。

あの日足りなかったのは英語力そのものではなく、「聞くと決まっている項目の英語」を準備しておくことでした。入院時アセスメントで聞くことは毎回ほぼ同じ——それなら、質問は事前に用意できたはずです。

What was your weight before you came to the hospital?
入院される前の体重はどのくらいでしたか?
Have you lost weight recently?
最近、体重は減りましたか?

初回対応で間が生まれるのは、「次に言うことを決めていない」からです。自分の職種の初回面談で必ず聞く項目を5つ書き出し、その英語を準備しておく——それだけで初日の景色は変わります。

あわせて、部屋に入って最初の30秒——名乗りと目的の共有——もワンセットで覚えておくと、初回の心理的ハードルがぐっと下がります。

I'm a dietitian at this hospital. I'd like to ask about your meals.
この病院の管理栄養士です。お食事についてお聞きしたいです。

02場面2:早口の返答が聞き取れない

食物アレルギーの聞き取りで、患者さんが「マンゴー」と答えているのに、発音がまったく聞き取れなかったことがあります。アレルギーは事故に直結するので、分かったふりで流すわけにはいきません。最終的には翻訳アプリを駆使してようやく確認できましたが、後から思えば、綴りを書いてもらえば数秒で済んだはずでした。聞き返しの「型」を持っていなかったことを悔やんだ場面です。

聞き取れないまま笑顔でうなずくのは、医療現場ではリスクになります。聞き返しは失礼ではなく、安全のための確認です。堂々と聞き返しましょう。

Could you say that again, more slowly?
もう一度、ゆっくり言っていただけますか?
Could you spell that for me? / Could you write it down?
綴りを教えていただけますか?/書いていただけますか?
Let me repeat what I understood.
私の理解を復唱させてください。

特に3つ目の「復唱」は、痛みの部位や食物アレルギーなど、聞き間違いが事故につながる情報の確認に有効です。

03場面3:文化・宗教の違いに気づかなかった

宗教上アルコールを控える患者さんを担当したとき、難しかったのは「守り方の強さが人によって違う」ことでした。飲酒だけ避けるのか、みりんや料理酒のような調味料に含まれるアルコールも不可なのか——ここが分からないと、別献立を立てるべきかどうかの判断ができません。文化の一般知識だけでは足りず、最後はご本人に確認するしかない、と学んだ経験です。

文化の違いは、起きてから対応するより、最初に聞いてしまうのが確実です。初回に次の質問を組み込んでおくと、後のトラブルを防げます。

Is there anything we should know about your culture or religion for your care?
ケアにあたって、文化や宗教のことで知っておくべきことはありますか?
Should we avoid all alcohol, including cooking wine and seasonings?
料理酒や調味料も含めて、アルコールはすべて避けたほうがよいですか?
Would you like your family to be here?
ご家族に同席してもらいますか?

この質問自体が「あなたの背景を尊重します」というメッセージになり、信頼関係の土台になります。

04場面4:説明はできたが、伝わったか不安

説明の間ずっと、患者さんがうんうんと頷いてくれるのに、本当に伝わっているのか最後まで確信が持てなかったことがあります。母国語で話せていたら確かめられたのに——そう思いながら、「頷き=理解ではない」ことを痛感しました。

「わかりましたか?」(Do you understand?)は、実はあまり機能しません。多くの患者さんは、わかっていなくても Yes と答えるからです。代わりに、行動を答えてもらう質問に変えます。

Just to check — how many times will you do this at home?
確認です。家では何回やりますか?
What will you be careful about with your meals?
お食事では何に気をつけますか?

答えが返ってこなければ、伝わっていなかったということ。もう一度、別の言い方で説明すればいいだけです。

05翻訳アプリとの付き合い方

翻訳アプリは便利ですが、医療現場では「翻訳アプリだけ」に頼るのは危険です。誤訳に気づけないからです。運営メンバーの使い分けは次のとおりです。

「全部自分の英語で」でも「全部アプリで」でもなく、場面のリスクで使い分けるのが現実的です。

決まっている質問が出ない → 必ず聞く項目の英語を事前に準備 返答が聞き取れない → 聞き返しは安全確認。堂々と 文化・宗教の違い → 起きる前に、初回に聞いてしまう 伝わったか不安 → Yes/No でなく行動を答えてもらう
困った場面と対処の型(Hiyu Lab作成)
共通する乗り切り方

4つの場面に共通するのは、「型を1つ準備しておくだけで、当日の心理的余裕がまったく違う」ということです。完璧な英語力ではなく、自分の担当場面の定型フレーズを10個持っているかどうか。それが現場の体感的な分かれ目でした。

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