アレルギー・宗教・食文化の聞き取り — 献立を立てるために必要な順番
外国人の患者さんの食事を組むとき、聞くべきことには順番があります。思いついた順に聞くと、必要な情報が埋まらないまま献立の締め切りが来ます。実務の流れに沿った聞き取りの順番と、それぞれの英語での聞き方を整理します。
1. アレルギーを最初に聞く
順番の先頭は必ずアレルギーです。宗教や好みの食事対応は「配慮」ですが、アレルギーは間違えると事故になるからです。聞き方は2段階で、まず有無、次に対象を確認します。
3つ目の「食べるとどうなるか」は飛ばされがちですが、重要です。発疹なのか、口の中が腫れるのか、呼吸が苦しくなるのか。重症度によって、厨房に出す指示の厳しさが変わります。
2. 宗教上の制限があるかを聞く
次に、信仰にもとづいて避ける食材があるかを確認します。ここは「あるかないか」だけを先に取ります。
「ハラルですか?」「ベジタリアンですか?」のようにこちらが分類を当てにいくのは、おすすめしません。分類に当てはまらない方も多く、当てはまったとしても実践の仕方は人によって違うからです。開いた聞き方で、本人の言葉で挙げてもらうほうが正確です。
3. どこまでが対象かを聞く — ここがいちばん難しい
聞き取りで最も難しく、しかも献立が変わるかどうかを決めるのがこの質問です。
たとえば飲酒を避ける方でも、みりんや料理酒のように調味料に含まれるアルコールまで避けるかどうかは人によって違います。ここが分からないと、通常の献立で対応できるのか、別献立を立てる必要があるのかが判断できません。
実際には、この確認をしたかったのに聞けないまま終わったことがあります。結果どうなったかというと、いちばん厳しい制限をかけるしかなくなりました。
聞けなかったときに何が起きるか
「分からないから、念のため全部避ける」は安全側の判断に見えますが、実務の負荷は小さくありません。
- 使える食材が一気に狭まり、献立の組み合わせが作りにくくなる
- 調理室へ出す指示の粒度が細かくなる(この調味料は不可、代替はこれ、と1つずつ)
- その指示が毎食分続く。入院期間が延びればそのぶん続く
- 患者さんにとっても、本来食べられたはずの料理が出てこない
つまり、許容範囲を1つ聞けるかどうかが、その後の入院期間ぶんの業務量を左右します。聞き取りに5分かけてでも確認する価値があります。
4. 普段の食事を聞く
「食べられないもの」を押さえたら、最後に「何なら食べ慣れているか」を聞きます。禁止事項だけ埋めても、提供した食事が食べられなければ栄養は入りません。
この質問で、食べ慣れた料理の系統が分かります。禁止食材には触れていなくても、食べ慣れないものばかりだと摂取量は落ちます。実際に、普段と違う系統の食事がほとんど進まず、後から調整が必要になったことがありました。
5. 対応できないときは、早めに相談する
施設の調理体制では用意できない食材・調理法もあります。その場合は、できないことを曖昧にせず、早い段階で伝えるほうが結果的に喜ばれます。
最後の一言があるかどうかで、受け取られ方がかなり変わります。「できません」で止めず、「この範囲で探しましょう」まで言えると、対応の相談として成立します。
聞き取りの前に用意しておけるもの
この一連の質問は毎回ほぼ同じです。英語で詰まるのがもったいないので、紙に書いて持っておくのが現実的です。
ゼロから作らなくても、厚生労働省が診療申込書や各科の問診票を13言語で公開しており、Word版は自分の施設向けに編集できます[1]。指差しボードや多言語の医療問診票は、外国人患者受入れ情報サイト(厚生労働省補助事業)に分野別にまとまっています[2]。
また、聞き取った内容を低栄養の評価につなげるときは、GLIM の用語に寄せておくと多職種で共有しやすくなります。GLIM は体重減少・低BMI・筋肉量減少という表現型基準と、食事摂取量の減少・炎症という病因基準を組み合わせて診断する枠組みです[3]。食事制限が強いほど摂取量は落ちやすいので、この2つはつながっています。
アレルギー(有無→対象→症状)→ 宗教上の制限(有無)→ 許容範囲 → 普段の食習慣 → 対応可否の相談、の順で聞く。いちばん難しい「許容範囲」を飛ばすと、最も厳しい制限をかけるしかなくなり、入院期間ぶんの業務量がそこで決まります。食材名が聞き取れないときは、音ではなく文字と画像で解決してください。
参考文献
- 厚生労働省「外国人向け多言語説明資料 一覧」(診療申込書・問診票・各種同意書などを13言語で公開). mhlw.go.jp
- 外国人患者受入れ情報サイト「多言語ツール」(厚生労働省補助事業). 指差しボード・多言語医療問診票・救急時の情報収集シートなどを分野別に収載. internationalpatients.jp
- Cederholm T, Jensen GL, Correia MITD, et al. GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition — A consensus report from the global clinical nutrition community. Clinical Nutrition. 2019;38(1):1–9. doi:10.1016/j.clnu.2018.08.002
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