臨床栄養

アレルギー・宗教・食文化の聞き取り — 献立を立てるために必要な順番

公開 · Hiyu Lab 管理栄養士

外国人の患者さんの食事を組むとき、聞くべきことには順番があります。思いついた順に聞くと、必要な情報が埋まらないまま献立の締め切りが来ます。実務の流れに沿った聞き取りの順番と、それぞれの英語での聞き方を整理します。

1. アレルギー あるか/何に対してか。命に関わるので最初 2. 宗教上の制限 避ける食材があるか 3. 許容の範囲 調味料まで対象か。ここが献立を分ける 4. 普段の食事 何なら食べ慣れているか 対応できない食材があれば、この時点で持ち込みの相談をする
食事対応の聞き取り順(Hiyu Lab 作成)

1. アレルギーを最初に聞く

順番の先頭は必ずアレルギーです。宗教や好みの食事対応は「配慮」ですが、アレルギーは間違えると事故になるからです。聞き方は2段階で、まず有無、次に対象を確認します。

Do you have any food allergies?
食物アレルギーはありますか?
Which foods cause the allergy?
どの食べ物でアレルギーが出ますか?
What happens when you eat it?
食べるとどうなりますか?

3つ目の「食べるとどうなるか」は飛ばされがちですが、重要です。発疹なのか、口の中が腫れるのか、呼吸が苦しくなるのか。重症度によって、厨房に出す指示の厳しさが変わります。

食材名が聞き取れないときは、音を追わない。アレルギーの原因食材は、普段の業務で出てこないものが来ることがあります。聞き返しても分からなければ、綴りを書いてもらうか、画像検索の結果を見せて指さしてもらうほうが確実です。ここで時間を惜しむと、後の工程すべてが危うくなります。

2. 宗教上の制限があるかを聞く

次に、信仰にもとづいて避ける食材があるかを確認します。ここは「あるかないか」だけを先に取ります。

Are there any foods you avoid for religious reasons?
宗教上の理由で避けている食べ物はありますか?
Is there anything you cannot eat?
食べられないものはありますか?

「ハラルですか?」「ベジタリアンですか?」のようにこちらが分類を当てにいくのは、おすすめしません。分類に当てはまらない方も多く、当てはまったとしても実践の仕方は人によって違うからです。開いた聞き方で、本人の言葉で挙げてもらうほうが正確です。

3. どこまでが対象かを聞く — ここがいちばん難しい

聞き取りで最も難しく、しかも献立が変わるかどうかを決めるのがこの質問です。

たとえば飲酒を避ける方でも、みりんや料理酒のように調味料に含まれるアルコールまで避けるかどうかは人によって違います。ここが分からないと、通常の献立で対応できるのか、別献立を立てる必要があるのかが判断できません。

Does that include seasonings and cooking ingredients?
調味料や料理に使うものも含みますか?
Is a small amount in the cooking acceptable?
調理に少量使われている分は大丈夫ですか?
Would you prefer that we avoid it completely?
完全に使わないほうがよろしいですか?

実際には、この確認をしたかったのに聞けないまま終わったことがあります。結果どうなったかというと、いちばん厳しい制限をかけるしかなくなりました。

聞けなかったときに何が起きるか

「分からないから、念のため全部避ける」は安全側の判断に見えますが、実務の負荷は小さくありません。

つまり、許容範囲を1つ聞けるかどうかが、その後の入院期間ぶんの業務量を左右します。聞き取りに5分かけてでも確認する価値があります。

4. 普段の食事を聞く

「食べられないもの」を押さえたら、最後に「何なら食べ慣れているか」を聞きます。禁止事項だけ埋めても、提供した食事が食べられなければ栄養は入りません。

What do you usually eat at home?
ご自宅では普段どんなものを食べていますか?
Is Japanese food okay for you?
日本の食事は口に合いますか?
What would you like us to serve more often?
どんなものを多めに出すとよいですか?

この質問で、食べ慣れた料理の系統が分かります。禁止食材には触れていなくても、食べ慣れないものばかりだと摂取量は落ちます。実際に、普段と違う系統の食事がほとんど進まず、後から調整が必要になったことがありました。

5. 対応できないときは、早めに相談する

施設の調理体制では用意できない食材・調理法もあります。その場合は、できないことを曖昧にせず、早い段階で伝えるほうが結果的に喜ばれます。

We may not be able to prepare that here.
こちらではご用意が難しいかもしれません。
Would it be possible for your family to bring some food?
ご家族に食べ物を持ってきていただくことは可能ですか?
Let's find what we can offer within our kitchen.
こちらで出せるものの中から、一緒に探しましょう。

最後の一言があるかどうかで、受け取られ方がかなり変わります。「できません」で止めず、「この範囲で探しましょう」まで言えると、対応の相談として成立します。

聞き取りの前に用意しておけるもの

この一連の質問は毎回ほぼ同じです。英語で詰まるのがもったいないので、紙に書いて持っておくのが現実的です。

ゼロから作らなくても、厚生労働省が診療申込書や各科の問診票を13言語で公開しており、Word版は自分の施設向けに編集できます[1]。指差しボードや多言語の医療問診票は、外国人患者受入れ情報サイト(厚生労働省補助事業)に分野別にまとまっています[2]。

また、聞き取った内容を低栄養の評価につなげるときは、GLIM の用語に寄せておくと多職種で共有しやすくなります。GLIM は体重減少・低BMI・筋肉量減少という表現型基準と、食事摂取量の減少・炎症という病因基準を組み合わせて診断する枠組みです[3]。食事制限が強いほど摂取量は落ちやすいので、この2つはつながっています。

まとめ

アレルギー(有無→対象→症状)→ 宗教上の制限(有無)→ 許容範囲 → 普段の食習慣 → 対応可否の相談、の順で聞く。いちばん難しい「許容範囲」を飛ばすと、最も厳しい制限をかけるしかなくなり、入院期間ぶんの業務量がそこで決まります。食材名が聞き取れないときは、音ではなく文字と画像で解決してください。

参考文献

  1. 厚生労働省「外国人向け多言語説明資料 一覧」(診療申込書・問診票・各種同意書などを13言語で公開). mhlw.go.jp
  2. 外国人患者受入れ情報サイト「多言語ツール」(厚生労働省補助事業). 指差しボード・多言語医療問診票・救急時の情報収集シートなどを分野別に収載. internationalpatients.jp
  3. Cederholm T, Jensen GL, Correia MITD, et al. GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition — A consensus report from the global clinical nutrition community. Clinical Nutrition. 2019;38(1):1–9. doi:10.1016/j.clnu.2018.08.002
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Hiyu Lab 管理栄養士

急性期病院で臨床栄養業務に従事する臨床11年目の管理栄養士。NST専従の経験があり、国内外の学会発表と英語論文の執筆を日常的に行っています。RD English Lab の設計と、臨床栄養・論文読解に関する記事を担当しています。プロフィール / 運営について / コンテンツ制作・編集方針

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