カタカナで覚えた医療英語が通じない理由と、その場での回避法
知らない単語は、調べれば済みます。厄介なのは知っているつもりの単語です。カタカナとして日常的に使っている語ほど、英語で言ったときに通じず、しかも「なぜ通じないのか」が自分で分かりません。実際に通じなかった語を手がかりに、どこがずれているのかを整理します。
実例1:protein が通じない
栄養の話をするのに protein が通じないのは致命的なのですが、これが通じないことがあります。
カタカナの「プロテイン」は、4拍を平らに読みます。英語の protein は2音節で、最初の pro に強勢があり、後半は「ティーン」に近い音になります。「プロテイン」と後ろを強めて平板に読むと、別の語に聞こえてしまいます。
通じなかったときの逃げ道は用意しておきます。栄養の文脈なら、語を言い換えるより例を挙げるほうが速いことが多いです。
実例2:allergy が通じない
アレルギーは、カタカナと英語でかなり離れている語の代表です。
日本語の「アレルギー」はドイツ語の Allergie 由来で、英語の allergy とは音が違います。英語では最初の a に強勢があり、「アラジー」に近い音になります。「アレルギー」と言っても、まず伝わりません。
これは安全に直結する語なので、通じなかったときの代替を必ず持っておきます。
アレルギーの確認は、聞けなければ書いてもらう、で構いません。音で粘るより確実です。綴りを書いて見せるのがいちばん速い解決です。
実例3:registered dietitian が言えない
自己紹介でいきなりつまずく例です。「レジスタードダイエティシャン」はカタカナにすると11拍あり、英語の音節数(registered が3、dietitian が4)とかけ離れています。長い語を正確に言おうとすると、途中で崩れます。
実際に、registered dietitian が言えなくて dietitian だけ言ったことがあります。結論から言うと、それで全く問題ありませんでした。
肩書きの正式名称は、相手にとってはほとんど情報量がありません。必要なのは「何をする人が来たのか」が伝わることです。2つ目のように役割で言うほうが、正式名称より役に立ちます。
なぜずれるのか — 3つの原因
強勢の位置
日本語は高低で、英語は強弱でリズムを作ります。カタカナ語は平板に読むので、英語として聞くと「どこが山か分からない」状態になります。英語話者は強勢の位置で語を見分けているので、ここがずれると別の語に聞こえます。
母音の質
カタカナは母音が5つしかないので、英語の多様な母音が「ア」や「エ」に集約されます。allergy の最初の母音も、カタカナ経由だと「ア」ではなく「ア(レ)」になってしまいます。
音節の数
日本語は子音のあとに母音がつくので、音節が増えます。protein は英語では2音節ですが、カタカナでは4拍。長くなるほど、元の形から遠ざかります。
現場でできること — 発音練習より先に
発音を直すのは時間がかかります。それより先に効く手があります。
1. 言い換えを1つ用意しておく
通じなかった瞬間に出せる代替表現を、重要語ごとに1つ持っておきます。専門語 → やさしい説明、の対応を作るイメージです。
- protein →「肉・魚・卵のような食べ物」
- allergy →「食べると具合が悪くなるもの」
- registered dietitian →「食事と栄養を担当する人」
- calf circumference →「ふくらはぎのまわりを測る」
2. 強勢だけ直す
母音を全部直すのは大変ですが、強勢の位置を1か所直すだけなら今日からできます。自分がよく使う語を10個選び、辞書で強勢の位置を確認して、そこだけ強く言う。これだけで通じ方が変わります。
3. 書く・見せるに切り替える
固有名詞や食材名は、音で解決しようとしないのが鉄則です。綴りを書く、画像を見せる。1回の往復で片づきます。
確認しておきたい語のリスト
カタカナで日常的に使っていて、英語ではずれやすい語を挙げておきます。自分がよく使うものから、強勢の位置を確認してみてください。
- protein(たんぱく質)— PRO-teen
- allergy(アレルギー)— AL-er-jee
- vitamin(ビタミン)— 米国式では VY-ta-min
- calorie(カロリー)— CAL-o-ree、強勢は最初
- albumin(アルブミン)— al-BYOO-min、強勢は真ん中
- edema(浮腫)— i-DEE-ma、英国式の綴りは oedema
- diabetes(糖尿病)— die-a-BEE-teez
- nutrition(栄養)— nu-TRI-shun
正式な用語を確認したいときは、PubMed の索引に使われている医学統制語彙 MeSH が使えます。ある概念に対してどの英語が標準として採用されているかが分かるので、和英辞典より信頼できます[1]。
辞書サイトの音声機能で、1語につき3回ずつ声に出すだけでも違います。覚えるというより、自分の口がカタカナに引っ張られないようにする作業です。
なお、職種名や制度の名称は国によって指すものが違うことがあります。日本の理学療法士が何を担う職種なのかは、日本理学療法士協会の説明が基準になります[2]。英語の肩書きを選ぶ前に、日本語側の定義を押さえておくと説明がぶれません。
通じなかったことを記録しておく
その場で通じなかった語は、忘れないうちにメモしておきます。市販の単語帳より、自分が実際に詰まった語のほうがはるかに優先度が高いからです。
メモして、その日のうちに発音を調べて3回声に出す。次に同じ場面が来たとき、今度は出てきます。この積み重ね方は、語彙の増やし方の記事にも書いています。
カタカナで知っている語ほど通じにくい。原因は強勢・母音・音節数の3つ。発音を一から直すより、①重要語に言い換えを1つ用意する、②強勢の位置だけ直す、③固有名詞は書く・見せるに切り替える、の順で手を打つほうが現場では速く効きます。肩書きは正式名称より「何をする人か」で言ったほうが伝わります。
参考文献
- U.S. National Library of Medicine. Medical Subject Headings (MeSH)(MEDLINE/PubMed の索引に使われる医学統制語彙). nlm.nih.gov
- 公益社団法人 日本理学療法士協会(理学療法・理学療法士に関する基礎情報、各種調査、刊行物). japanpt.or.jp